左変形性膝関節症を推論してみた

左変形性膝関節症(K-L分類グレードII)

推論(形態測定)

左変形性膝関節症(以下左OA)と診断され、患者本人も左膝の内側に痛みがあると訴えていることから、変形性膝関節症内側型が予測される。

膝OA(内側型)では、大腿骨外彎,脛骨内捻,FTA増大,下腿内旋,膝屈曲拘縮,回内足(後足部外反)を呈する。又,上半身では前方頭位,胸腰椎後彎,骨盤の後傾を呈する。

形態測定の結果から、転子果長,膝蓋骨上縁周径,膝蓋骨上縁から5cm周径,下腿最小周径に左右差が顕著に見られた。

 まず,転子果長では,左足よりも右足の方が1.5cm長く見られた

この理由は,左OAによる膝関節屈曲拘縮を呈することから,検査肢位(背臥位)における大転子から外果までの短縮が生じた事により転子果長の左右差に影響を及ぼしたのではないかと考える.

膝蓋骨上縁周径では,右足よりも左足の方が太く見られた

この理由は,左OAによる骨棘形成や脛骨大腿関節及び,膝蓋大腿関節の関節裂隙の狭小化,内反変形を呈する事による関節内水腫が生じた事により左右差に影響を及ぼしたのではないかと考える.

膝蓋骨上縁から5cm周径では,左足よりも右足の方が太く見られた

この理由は,左OAによる内反変形,骨棘形成を呈する事から膝関節屈曲拘縮を生じ,その結果として,左膝関節伸展の可動域制限が右足よりも顕著に見られた事により左膝関節伸展筋群(特に内側広筋)の萎縮が左右差に影響を及ぼしたのではないかと考える.

下腿最小周径では,右足よりも左足の方が太く見られた

この理由は,左OA(K-L分類グレードII)による脛骨大腿関節の狭小化と骨棘を呈する事から疼痛が見られ,その結果として,右側と比較して左側に荷重を掛ける機会が少ない事による左下腿周辺の間質液と毛細血管との体液バランスの不均衡(浸透圧の拡散障害)が左右差に影響を及ぼしたのではないかと考える(下腿三頭筋のmilking作用の低下).

推論(可動域測定)

関節可動域測定では、両側股関節屈曲(左側他動で疼痛有),右側外転(両側他動で疼痛有),左側内転(左側他動で疼痛有),両側内旋、両側外旋、右側膝関節屈曲,両側伸展、両側足関節背屈に可動域制限が見られた。

両側股関節屈曲制限では、OAによる骨盤後傾,股関節外旋拘縮が生じる事による股関節伸展筋群の筋スパズム及び柔軟性の低下,後部関節包の固さによる大腿骨頭の前方変位及び,変形性股関節症による臼蓋形成不全を呈する事から,大腿骨頭と寛骨臼とのインピンジメント,大腿筋膜張筋の過緊張が考えられる.

左股関節屈曲(他動)での疼痛は、臼蓋の前方開角と骨頭の前捻角の関係性により,骨盤の後傾に伴う大腿骨頭の前方被膜が減少する事による前方不安定性及び,後部関節包の固さ,腸腰筋による軸回旋の誘導低下と大腿直筋の優位性(脛骨粗面から下前腸骨棘までの水平ベクトルによる力線の関係から大腿骨頭の前方変位が生じる),大臀筋の機能不全が原因であると考える(機能的には臼蓋形成不全と同じ状況になる為,変形性股関節症としての疼痛の可能性有).

右股関節外転制限では、左OAによる内反変形を呈することから,大腿筋膜張筋の長さ張力曲線の関係による過緊張(ASISからガーディー結節までの水平ベクトルによる力線の関係から大腿骨頭の外方変位が生じる※Ober testで判断する)や軟部組織の伸張障害(右股関節内転筋の柔軟性の低下,筋膜の癒着,関節包や靭帯の伸張低下)又,両側股関節外転時(他動)による疼痛は、大腿筋膜張筋の過緊張及び,股関節外転時痛と女性である事から,発育性股関節形成不全(臼蓋形成不全)の後遺症の可能性が考えられる(CE角<25°,Sharp角>40°の可能性有)

左側股関節内転時(他動)による疼痛では,臼蓋形成不全及び,背臥位による検査肢位により,左OAによる股関節が屈曲する事から股関節内旋の代償動作が生じる事によるFAIが考えられる(CAMtype,pincertype,mixedtypeの分類は画像所見により判断する).

股関節外旋制限では、左側に顕著に見られた。この理由は,左OAによる骨盤の後傾,股関節外旋拘縮を呈する事による,股関節伸展筋群の筋スパズム及び柔軟性の低下が考えられる.

股関節内旋制限では、OAによる股関節外旋拘縮を呈することから,CKC時における相対的な股関節内旋が生じる事による軟部組織の癒着(下行性運動連鎖による関節内圧縮),又は,発育性股関節形成不全(臼蓋形成不全)の後遺症の可能性,FAIが考えられる(CE角<25°,Sharp角>40°の可能性有)

右膝関節屈曲制限では、右膝関節屈曲拘縮及び股関節屈曲拘縮を呈している事から,右OAの可能性と膝関節伸展筋群(大腿直筋以外)の筋スパズム及び,柔軟性の低下,膝関節屈曲時におけるPCLの固さによる凹の法則の関節内拘縮,OAによる関節内水腫を呈する事により関節内運動の潤滑の低下,その他軟部組織の固さが考えられる.

両側膝関節伸展制限では、左OA(K-L分類グレードII)による内反変形や骨棘形成を呈することから,膝関節屈曲拘縮及び,骨盤の後傾,脛骨大腿関節の相対的な内旋を呈することによる半膜様筋,半腱様筋の短縮が考えられる(相反抑制による膝関節伸展の制限因子).又,左OAによる膝関節屈曲拘縮を呈することから,内側広筋の萎縮も考えられる(膝関節最終終末伸展の消失).

両側足関節背屈制限では、OAにより足関節背屈拘縮を呈する事から,足関節底屈筋群の筋スパズム及び,柔軟性の低下や距腿関節の関節圧縮などが考えられる(下行性運動連鎖による骨盤後傾から足関節背屈制限を呈する).

問題点

上記の形態測定と関節可動域測定の評価から,主に4つの問題点が挙げられる.

1つ目は,歩行動作における重複歩距離の減少が考えられる.

理由は,OAによる両側足関節の背屈制限を呈している事から,歩行時のTStにおける足関節背屈が制限されている為,アンクルロッカーからフォアフットロッカーまでのロッカー機能消失による前方推進力の低下(反対側の歩幅減少)と膝関節屈曲拘縮を呈している事から,TSw時における膝関節伸展が生じない(患足側の歩幅減少)からである(ヒールロッカーの消失=衝撃吸収機能不全)

2つ目は,大臀筋の機能不全(歩行時の膝折れ)が考えられる.

理由は,OAによる骨盤後傾を呈する事から,歩行時のLRにおける股関節伸展筋群のEccの低下が考えられる為,骨盤後傾による身体重心位置の後方移動が生じ,膝関節伸展筋群のEccの代償動作が見られるからである(床反力作用線と膝関節までのモーメントアーム増大による膝関節外的屈曲モーメントの増大=膝折れのリスク増大)

3つ目は,MStにおける外側スラスト現象とデュシェンヌ跛行の出現が考えられる.

 理由は,OAによるMStにおける床半力作用線から膝関節までのモーメントアーム増大による外的内反モーメントが増大するからである.デュシェンヌ跛行に関しては,MStにおける床半力作用線から膝関節までのモーメントアームを減少させるためである(体幹を患足側に傾ける事による上半身質量中心の側方移動)

4つ目は,正座獲得の長期化が考えられる.

理由は,関節可動域測定による右膝関節屈曲可動域制限が見られたからである.

中村ら7)によると「正座の獲得には150°の膝関節屈曲が必要」とあり,本症例患者では120°の膝関節屈曲可動域制限を呈している事から,正座の獲得に時間を要すると考える.

参考文献

1)林典雄:運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈 下肢編, 運動と医学の出版社,2018

2)市橋則明:身体運動学 関節の制御機構と筋機能, メジカルビュー社, 2017

3)斉藤秀之:極める変形性膝関節症の理学療法, 文光堂社, 2016

4)岡庭豊 :病気が見えるVoL11運動器・整形外科, メディックメディア社, 2017

5)工藤慎太郎:運動器障害の「なぜ?」がわかる評価戦略, 医学書院, 2017

6)日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/hip_osteoarthritis.html

7)中村嘉宏,柏木輝行,田島卓也,「他」:深屈曲・正座を目標とした人工膝関節置換術宮崎医学会誌 28:41~47,2004

8)https://medicalnote.jp/contents/170518-002-CS

9)佐藤香緒里,吉尾雅春,宮本重範「他」:健常人における股関節外旋筋群が股関節屈曲に及ぼす影響 理学療法科学 23(2):323–328,2008

※実際の患者様情報ではありません

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